2009年4月26日 - 2009年5月 2日 « トップへ » 2009年9月20日 - 2009年9月26日

2009年9月10日

はじめに

日本での交通事故による死亡者数は、昭和45年1万7千人を頂点に平成8年からようやく1万人を下まわりました。車社会のドイツでも、交通事故の多さでは日本とさほど変わらない時期がありました。なんとか交通事故を減らそうと、日本もドイツも様々な工夫をしたのです。 

日本は、交通規則を厳しくして、取り締まりに力を注ぎました。一方、ドイツは車運転のマナーを徹底的に若者に教えました。

結果はどうでしょう。日本は死亡者数は減少していますが、事故そのものの件数はあまり減っていません。厳しい罰則の効果は大して現れません。

ところが、ドイツでは交通事故が激減したのです。かつて、ドイツも日本と同じように敗戦の廃墟の中から、同じように工業に力を注いで復興を遂げました。このことから、比較されることの多い国ですが、国民性は非常に異なり、その違いは色々なところに現れています。

日本では、交通事故は「なくすのではなく、取り締まるもの」として、考えられてきたのではないでしょうか。国民を信頼して自覚を促すのではなく、「規則を破ったら罰金ですよ」と脅かす方法がとられています。

それと同じことが、虫歯予防についてもいえます。日本の虫歯への取り組みは、学校検診に表れているように、虫歯は「なくすもの」ではなく「治療するもの」です。

その結果、たしかに虫歯の罹患者は減っています。しかし、それは虫歯にならなくなったのではなく、治療済みの歯が多いということです。ヨーロッパの豊かな国で、現在、虫歯になる子どもの数は激減しています。

「虫歯がなぜできるのか」
「虫歯を予防する効果的な方法はないのか」
「歯ブラシに頼っているだけでは予防できないが、どうすればよいのか」
「国民の払う大切な税金で医療費を賄うには、どうしても虫歯をなくすことが必要だ」

このように考えたのかどうかは別にして、明らかに虫歯をなくす努力が徹底され、社会的な常識になったということでしょう。

日本が、交通事故対策と同じ失敗を繰り返さないことを願わずにはいられません。

実は文明生活こそ歯の大敵。

【ライオンも歯で命を落とす】
ヒトの歯について考える前に、自然の中で生きている動物を考えてみましょう。動物は、草食動物であろうが肉食動物であろうが、餌が捕れなくなつたり、食べられなくなつたりすれば、それは確実に死に繋がります。

以前、テレビのドキュメンタリー番組で、アフリカのライオンが、食い漁った動物の骨が牙に挟まって餌を捕れなくなり、どんどん衰弱していく映像を見たことがありますが、動物にとって、歯はまさしく自分の生命を支える大切な器官です。

そのため、自然の中で生きている動物には、本来、死ぬまで健康な歯でいられる仕組みが備わっています。たとえば、唾液の殺菌作用とか洗い流し作用などの自浄作用によって、ヒトのように虫歯になったりしません。

今は亡き農学博士の川島四郎氏は、私たちの食生活に何度も警鐘を鳴らしてくださった方ですが、九十歳になってもなお、アフリカに度々出かけ、原住民と生活をともにされながら、彼らの食生活を観察・研究されました。

【葉っぱをバリバリ食べてきれいな歯】
川島博士は、まず、歯ブラシもしないのに彼らの歯が丈まで真っ白であり、そして歯並びも整っているのに驚きました。 

原住民の食生活をつぶさに観察すると、元来狩猟採集民族である彼らは、今の私たちではとても食べられそうもない木の根や硬い葉っぱを、生のままふんだんに食べます。それらの植物の繊維質が、歯ブラシをするのと同じ働きをして、歯をいつもきれいにしてくれることがわかりました。

つまり、ヒトの歯も、動物と同じように生命を維持する上で必要不可欠な器官で、簡単に抜けたりはしません。ところが、そうした食生活を続けてきた彼らの社会に、一度私たちと同様な食文化が入り込むとどうなるのでしょうか。 

アメリカの歯科医ウエンストン・プライスという人が、世界の一四の原住民の実態を調査し、驚きとしかいいようのない報告をしています。歯が健全に発達していたアフリカの原住民の顔の骨格は、元々あごがしっかり張った○字型をしていました。

【柔らかい食べ物で歯周病にも】
ところが、先進国の私たちが現在食べているような食生活に変わり、見事にあごが細くなってV字型になり、顔自体の形も表情も変わってしまいました。

歯並びは悪くなり、虫歯だらけになりました。そして、真っ白だった歯も黒っぽくなり、歯茎が退化して歯が露出し、歯肉は腫れ、まさに歯周病(歯槽膿漏)の状態に悩まされるようになってしまいました。人間が食べ物をおいしく食べやすいように工夫してきた長年の努力が、ヒトが本来もっていた自然のカを壊してしまったということです。

【歯は使ってこそ価値がある】
人間はいつ頃から虫歯に悩んだのか、人類最古の文化の発祥地といわれる古代バビロニア(紀元前三〇〇〇年頃)の時代には、既に虫歯の存在が確認されています。

虫歯の痛みをしずめる呪文が残っています。めったにない病気なら、呪文までできるわけがありません。しかも、都市に住む富裕な人程、虫歯や歯周病に悩まされていました。生の食べ物を歯で噛み砕き、食べることはなかなか大変なことです。人間は知恵がありますから、なんとかして楽に食べられるように工夫してきました。

そのうち、食べ物を食べやすい大きさに切ったり、すりつぶしたり、火を通して柔らかく煮たり焼いたりするようになり、おそらく食べることそのものを楽しむようになったと思います。ところが、虫歯や歯周病に悩まされ始めます。 

では、なぜ食べやすいものを食べると虫歯や歯周病になるのでしょうか。
ペットフードのイヌやネコも歯周病に噛む力や回数が減ると、なぜ虫歯や歯周病になるのでしょうか。 

虫歯や歯周病の原因になる細菌は、ある日突然、人間の口の中に出現したものではありません。大昔から人間の口の中に、口腔内常在菌として存在していました。それ自体は、たとえロの中にあっても問遁とならない当たり前の細菌です。人間が、自然なままの食べ物を回数をかけて歯で噛みつぶして食べてさえいれば、動物と同じように細菌は落とされ、唾液が沢山出て食ベカスまで洗い流してくれていました。

食べ物を柔らかく食べやすい状態に調理して、あまり噛まずに食べる習慣がつきますと、この自浄作用は人間のロから失われていきます。家の中で飼われるイヌやネコなどのペットも、噛まずに食べられる缶詰のエサばかりですと、必ず歯周病になるといいます。

噛む食生活を取り戻す。

【自分の歯で食べるのがおいしい】
「歯はダメになっても、入れ歯(義歯)があるから安心」と思われる方は少なくないと思います。しかし、天然の歯と入れ歯では、噛める力が全く違います。

入れ歯の場合、噛む力は良くて70%、悪い場合はなんと7%にまで落ちてしまいます。寝たきりの老人の歯を治したら、元気になり、再び歩くことができるようになったという事例さえもあります。 

これは、様々なことを意味しているように思えます。つまり、どんな栄養分をからだに取り入れるにしても、管で流し込むのと、口から食べるのとでは全く違うはずです。歯あるいは入れ歯の良し悪し次第で、しっかり噛むことができる場合と、ほとんど飲み込んでしまう場合とでは、その栄養の吸収力も違うということです。 

さらに、噛むことによる脳への刺激も見逃せません。食べる楽しみが長寿をもたらす歯の抜けた歯茎はどんどん痩せていき、個人差はあるものの念入りに入れ歯を作ってもすぐに合わなくなり、食事をする度に入れ歯がずれて痛む人が多くいらっしゃいます。

老後の大きな楽しみの一つである食べることが、苦痛になってしまうのかどうかで、生きる喜びが違ってきます。食べることの楽しみが失われると、痴呆症状に繋がっていく人さえいるのです。歯が悪くなってから、気がついても遅いとしかいえません。

それこそ子ども時代から歯の健康に努力しなければいけません。平均寿命が延びた分だけ、「歯を守る」という意識を早くから確かなものにすることが大切です。人間も本来、一生と歯の寿命が同じであるはずなのですから、努力次第では不可能ではありません。

それにはなによりも、「噛む」食生活を取り戻すことです。

歯のありがたさをいつも考えよう。

【今からでも、歯科医へ向かおう】
誰でも、健康でりんごを丸ごとかじったり、硬い干し魚をポリポリ食べられるようなときには、歯の存在を気にも留めないものです。

ところが、歯がなくなった方は、入れ歯を入れるに至るまでに、さんざん噛めない状態を我慢していることもあり、自分の歯があったらどんなに良かっただろうと、失われた歯を惜しむようになります。自分の歯があったときはもっとよく噛めていたことや、また食べ物がもっとおいしかったことに気づくからです。しかし、歯がなくなって初めて、歯に感謝をしても本当は遅きに失するというものです。総入れ歯になるまでには、それなりの経過があるはずです。

1本でも虫歯になったら、あるいは歯茎から血が出るような歯周病になったら、それは天の声だと思ってください。すぐに歯科医のもとへ行き、どうすれば歯を守ることができるのか、歯に対して「ちょっとした関心」を持つように心がけることが大切でしょう。

【噛む力を高める歯の健康】
歯は一度でき上がれば、自ら成長したり、変形することはありません。したがって、歯胚ができ、石灰化が始まる時期には十分な栄養が必要になります。

歯の成長には、カルシウム、リン、ビタミンA・C・Dなどが必要です。また、甲状腺、脳下垂体、副腎、上皮小体からのホルモンの分泌も正常でなければなりません。つまり、栄養と健康こそが、丈夫な歯が育つためには必要不可欠です。

歯が欠けたり抜けたり、あるいは歯並びが悪かったりしますと、噛む力が低下します。歯の欠損を治し、歯並びの矯正をして虫歯を防ぐことによって、噛む力の低下を防ぎ、ひいては体全体の健康を維持することができます。


2009年4月26日 - 2009年5月 2日 « トップへ » 2009年9月20日 - 2009年9月26日


コールバック予約